人を襲うクマたち。もし遭遇したら・・死んだふり?
2016年は熊が例年に比べて大繁殖したようで、各地で熊の被害が報じられましたよね。中でも山菜取りなどで山に入った人が熊に襲われ・・ただけでなく食べられたというニュースは衝撃でした。
私は2016年、熊が頻出していた秋田県の山の方にマラソンのトレーニングに出かけまして・・そのときはもし熊に出会った時のシミュレーションを入念にしていきました。もし熊に出会ったら、やっぱり死んだふり。おびえて逃げずに、落ち着いてその場で死んだふり。これしかないっと!
・・って実際そんなことできるはずがありませんよね。実際もし熊に出会ったとして、死んだふりすれば本当に助かるのでしょうか?今日は獣医さんらしく、熊の生態や習性とともに考えてみたいと思います。
上の本「すごい動物学」も参考にさせていただきました。
熊は人を食べる?肉食から草食へ進化しつつある熊。
2016年、多くの人が熊に襲われ、さらに襲った熊の胃袋から被害者の肉片が見つかりました・・このニュースを耳にしたときは驚きました。人を襲った熊を捕獲し、解剖してみると胃袋の中から人の肉の塊がみつかったというのです。これは熊が人を食べたという明らかな証拠ですね。
ここからは、少し怖いことを書きます。読みたくない方は次のセッションへとんでください。
熊が人を食べた、ということは実は歴史的に見て全く不思議なことではないようです。むかし北海道で、熊によって民家の7人が襲われ死亡した事件がありました。
このとき、熊は人を襲うことが目的だったわけではなく食べていたという記録が残っています。なぜなら、一度に食べられなかった分は、再び民家を訪れて肉を巣穴に持ち帰ったという行動が目撃されているからです。
このとき、さらに恐ろしいことがわかりました。
熊は肉食動物ですが、ネコ科動物のようなハンターではありません。1対1のレスリング式で獲物を捕まえて食べるのです。
つまり一撃で急所を狙って殺すわけではなく、襲い掛かり、弱らせ、ついには生きたままかじっていくというスタイルで人を食べるということです。想像するだけで、身の毛がよだちますね・・
このような歴史からも、熊は肉食動物であり、人の肉も食糧として食べることがあるというのは事実でしょう。しかしハンターではない熊にとって、狩りはエネルギーを使い、さらに成功率も低いという難点があるのです。そこで仕方なく、どんぐりなどの木の実を食べるようになりました。現在は雑食動物で、いずれ草食動物へと進化しつつある動物とも言えるようです。
そんな熊に出会ったら「死んだふり」で助かるのか?
結論からいうと、「クマに出会って死んだふり」では、助かりません。
このような言い伝えが生まれたのは、昔熊に襲われた一家で唯一助かったのが寝ていた赤ちゃんだったから・・とか。熊は死んだ肉は食べないから・・とかいう迷信からきているようです。
しかしながら、先程も書きましたとおり熊は死んだ肉でも食べます。もともと巣穴に肉を貯蔵して、毎日小分けで食べる習性があったり、狩りが下手なので他の動物をおこぼれをもらったり、奪ったりする動物で、死肉を食べないというの全くの誤りです。
それに、とりわけ熊の嗅覚はものすごいのです。鼻腔が広いためにおいをつかまえる能力が優れていて、生きた血の匂いはすぐにわかります。ホッキョクグマが氷の下のアザラシの匂いを感知して氷をたたき割る映像など、よくテレビで見ますよね。
つまり死んだふりなど、お見通しってことです。
いやいや、そんなことはわかってる。結局「死んだふり」がいいのは、威嚇しないでそっと息を殺していた方がいいということではないか?という意見も出そうですがね。
しかし、これも誤りです。熊は、自分と目をそらしたり、背を向けたものは、「自分より弱いもの」と認識し、すぐに襲い掛かります。つまり威嚇しないのは、間違った対処法なのです。
熊に遭遇したら、助かるかもしれない方法3つ
ではいったい熊と遭遇したら、どうすれば良いのか。熊の習性から、もしかしたら助かるかもしれない方法を3つあげておきます。
・絶対に目をそらさず、刃物を振りかざして大声で威嚇する
これは先程の熊の習性を生かしたものです。とにもかくにも「自分より下だ」と思わせないことです。
熊より体を大きく見せるよう手を上にあげる。山菜とりなどの場合で刃物をもっている時は、熊の爪にみえるよう大きく振り回す。そして低い大きな声で威嚇する。
間違っても「キャー」と悲鳴をあげて驚ろかせてはいけません。熊は驚くと、反射的に襲い掛かります。
冷静に、熊に判断をさせるのです。相手は自分より強い敵だと。そうすれば、熊の方が逃げる可能性があります。ただし少し逃げたからと言って、安心して目をそらしたり背を向けてはいけません。その瞬間襲ってくることもあります。熊が完全に見えなくなるまで威嚇し続けましょう。
・熊と自分の間に障害物をつくる
これも熊の習性を生かしたものです。
熊は、ハンターではないのです。とっさの判断が上手な生き物ではありません。相手が強いのか、弱いのか、確認します。そんなとき熊との間に物理的な障害をつくると、熊に心理的な壁もつくることができると言われています。
もちろん目をそらしたり、背を向けたらアウトです。熊から目を離さないようゆっくりと後ずさりし、熊と自分の間に木などの障害物を入れ込みます。
同時に一つ目のような威嚇をすると、より効果的ですね。しかしこれは非常に難しいです。後ろ向きに歩くときにも絶対に目はそらせないのですから。
・熊との距離がある場合は、全速力で山を下る
これも熊の身体能力に関係があります。
何度も書いていますが、熊は足が速くなくまた体力もあまりありません。と言っても、住み慣れた足元の悪い山では当然人より身体能力は勝っています。そのため、若くて脚力と体力があり、絶対転ばない自信があれば、全速力で逃げるのも一つの手ですね。
なぜ山の下ににげるか。
熊は下りは苦手で転がってしまうから、なんて話もよく聞きます。しかし、これは人は下りが得意だからです。というより、上に登るにはスピードも落ちるし体力も消耗します。熊の方が完全に優勢です。勝ち目があるとしたら、山下に下った場合の長期戦だということです。
熊が下の方にいた場合は・・この戦法は諦めましょう。
熊と遭遇したら、襲われることは避けられない。遭遇しない工夫を!
熊と出会った時の対処法について、あげてみましたが。いずれも「助かるかもしれない」というだけです。
熊と遭遇したら、まず無傷では帰れないことは覚悟しておきましょう。
そのため、熊と遭遇しないことが何より大切になります。
少なくとも日本の山で遭遇するツキノワグマは向こうから好んで人を襲うことはありません。鈴をつけたり、ラジオをかけたり、大きな声で歌ったりしながら山に入れば、熊の方が人を避けてくれるのです。熊だって人間には遭いたくありません。それなのに不意に人と遭遇するから、驚いて襲うのです。熊のためにも人間の方が存在感を出しておきましょう。それが山に暮らす熊さんへの気遣いですね。